極上の他人


そして、誠吾兄ちゃんが電話してきた理由もわからないまま、私はスマートフォンと輝さんを交互に見た。

「誠吾先輩って、ほんとに史郁のことが心配なんだな。……ま、これだけかわいいから男が寄ってこないか心配もするか」

輝さんはそう言って私の肩を抱くと、私の意志なんてお構いなく歩を進める。

「今日の夕食は、ロールキャベツだからな。トマトじゃなくコンソメベース。昨日からことこと煮込んだスープは自信作だ」

「あ、あの、私はもう、夕食は遠慮しようと思ってメールだって送ったんですけど」

「そんなの認めないって、言っただろ?夕食は店で食べるし、それに。今、誠吾先輩にも言っておいたけど」

私の肩を抱く手に力がこもる。

ひきずられるように歩きながら見上げると、心なしか緊張しているような輝さんの口元が目に入った。

「輝さん?」

私のペースに合わせてくれているんだろうけれど、歩幅の広い輝さんに肩を抱かれたまま歩くのは不安定で、つまずきそうになる。

思わず輝さんの腰に手を回した途端、その親密さが恥ずかしくなってその手を離そうとしたけれど、輝さんの動きの方が早かった。

「このままでいい」

私の肩を抱いている手とは反対の手で、輝さんの腰に回している私の手を包み込んだ。

< 183 / 460 >

この作品をシェア

pagetop