極上の他人
そして、誠吾兄ちゃんが電話してきた理由もわからないまま、私はスマートフォンと輝さんを交互に見た。
「誠吾先輩って、ほんとに史郁のことが心配なんだな。……ま、これだけかわいいから男が寄ってこないか心配もするか」
輝さんはそう言って私の肩を抱くと、私の意志なんてお構いなく歩を進める。
「今日の夕食は、ロールキャベツだからな。トマトじゃなくコンソメベース。昨日からことこと煮込んだスープは自信作だ」
「あ、あの、私はもう、夕食は遠慮しようと思ってメールだって送ったんですけど」
「そんなの認めないって、言っただろ?夕食は店で食べるし、それに。今、誠吾先輩にも言っておいたけど」
私の肩を抱く手に力がこもる。
ひきずられるように歩きながら見上げると、心なしか緊張しているような輝さんの口元が目に入った。
「輝さん?」
私のペースに合わせてくれているんだろうけれど、歩幅の広い輝さんに肩を抱かれたまま歩くのは不安定で、つまずきそうになる。
思わず輝さんの腰に手を回した途端、その親密さが恥ずかしくなってその手を離そうとしたけれど、輝さんの動きの方が早かった。
「このままでいい」
私の肩を抱いている手とは反対の手で、輝さんの腰に回している私の手を包み込んだ。