極上の他人


私は至極真面目に聞いただけなんだけど、そんなにおかしなことを言ったかな。

「車に、史郁が好きだって言ってたCDを積んでおいたから、店に着くまで聞いていいぞ」

私の戸惑いをわかっているのかいないのか、輝さんはさらに私を甘やかす。

そして、輝さんの言葉どおり、駐車場に停められていた車の助手席には、ぽつんとCDが置かれていた。

先週、ラジオから流れたその曲に聴き入って、「いい曲だね」と何度も呟いた。

「店を三軒回ってようやく見つけたんだぞ」

嬉しそうに呟く輝さんは、私が手に取ったCDを指先で軽くなぞった。

「いつか、ここに一緒に行けたらいいな」

輝さんは、あっさりとそう言って笑うけれど、このCDのジャケットの写真はスペインだ。

一緒に行けるわけないのに。

そう思って俯く私の頭をぽん、と叩いた輝さんは、

「行きたいなら、行けばいいし、欲しいもんは自分で手に入れればいいんだよ」

そう言って、車のエンジンをかけた。



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