極上の他人
「やっぱりふみちゃんの口には合わなかったか。次は甘いカレーを作っておくから、また食べにおいで。一人暮らしだったら食事の支度も面倒だろ?ふみちゃんの胃袋を掴むためにいろいろ用意しておくよ」
完食した私の頭を撫でながら、まるで子供を誉めるように優しい目でそう言ってくれた輝さん。
愛しい者を大切にするような仕草で触れられて、私でなくてもぐっと気持ちが取り込まれてしまいそうだ。
彼にとって私は単なるお見合い相手でなく、特別な存在なのかと誤解しそうになるけれど、そんなことはありえない。
わかってはいても、普段私には無縁な優しい視線を向けられると、その言葉を拒むことはできない。
「甘口のカレーなら、食べられます。できればレーズン入りでお願いします」
「お?レーズンが苦手な人も多いのに、同士発見。俺も好きなんだよ。レーズンたっぷり用意して待ってるから、また食べにおいで」
「……はい」
小さく頷く私にほっとしたような表情を見せた輝さんは、ちょうどバイトの男の子に呼ばれたのをきっかけに、「ゆっくりしていけよ」そう言ってお店の奥へと行った。
混み合う店内を見回すと、私一人を相手にしてくれる時間なんてないはずだと気づく。
それなのに、わざわざカレーを用意してくれて、居心地のいい時間を提供してくれた。
これが、年上の優しさなのかな。
それとも、お見合い相手として訪ねてきた私と亜実さんへのせめてもの礼儀なのかな。
バイトの男の子に幾つかの指示を出しながら、近くのテーブルのお客さんとも楽しげに会話している横顔に、ほんの少し、見惚れた。