極上の他人


私達が今携わっている仕事を考えれば当然なのかもしれないけれど、突然の指示には驚いた。

それぞれが普段抱えている仕事も、プロジェクトに時間を割いているせいで遅れ気味なのに、いきなり出張なんて、気ばかりが焦ってしまう。

せめて昨日のうちに言って欲しかったな、と小さく息を吐くと、そんな私たちの気持ちを見透かしたように、部長の言葉が続いた。

「こんな状況、営業マンたちには日常茶飯事なんだぞ」

部長の声に、はっと視線を上げた。

「お客様に一番近い場所にいる営業マンたちは、それこそ24時間体制だ。
お客様の休日が日曜日なら、日曜日に伺って打ち合わせだし、深夜にしか時間が取れなければ深夜に訪問することもある」

部長はそう言って、私たちを見回した。

「俺なんて、自分の結婚式に向かう車の中でお客様から電話が入って、急きょ設計変更の打ち合わせ、なんてことも経験してる。今となっては笑い話だけど、それ以来嫁さんには何度も嫌味を言われてるよ。『図面と結婚すればよかったのよ』ってな」

「図面と結婚、ですか?」

私の隣にいる同期の一橋くんが呟いた。

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