極上の他人
図面が溢れている私の机の上に、釣書と写真が並べられたのも、5回目だ。
前回の相手は確か銀行マンだったような。
まだ入社一年目の私には、お見合いをして今すぐ結婚したいという願望があるわけもなく、その時も丁重にお断りした。
今の私は毎日仕事に追われ、そして家に帰って眠るだけ。
自分の力でしっかりと生きていくために仕事に没頭しているけれど、そんな日々を特につらいとも、逃げ出したいとも思わない。
望んでいた建築の世界に身を置いて、ようやく将来への道筋を感じられた矢先。
結婚という大きなものを背負うなんてこと、できるわけもない。
もちろんいつかは愛する人と結婚して幸せになれればと思うけれど、私の境遇を考えれば、それも難しいと思っている。
私にとって結婚は、手を伸ばしてもこの手に掴むことはできない儚いもの。
夢見ることすら難しい、憧れだ。
だから今は、これまで学んできたことを無駄にせず、しっかりと仕事を覚えて、今も未来もずっと、一人きりでも生きていけるように、必死なのだ。
愛する人と人生を共有できれば幸せだけど、一人きりの時間がこの先も続く場合に備えて、頑張らなければいけない。
それでなくても、入社したばかりの今、結婚なんて、論外だ。
お見合いも合コンも、私にはなんの興味もない。