極上の他人
その後、私は週に何度か輝さんのお店に通っている。
亜実さんから「輝くんがおいしい夕食用意して待ってるからいつでもおいでって言っていたわよ」と伝えられたことがきっかけだ。
私にとって、おいしい夕食という言葉は最上級の誘い文句。
仕事を終えて、疲れた身体で顔を出せば、優しい味の夕食が用意されている。
なんて魅力的。
一人暮らしの私にとって、輝さんのお店で夕食を食べることは生活の一部となりつつあり、輝さんや千早くんと時折交わす会話をとても楽しく感じるようになっていた。
二人とも、特に私の為に仕事の手を休めるわけでもないし、とりたてて特別な態度で私の相手をしてくれるわけでもないけれど、私に向けてくれる笑顔は極上だ。
その笑顔を見たいがためにお店に通っているのかもしれない。
輝さんに『おいで』と声をかけられたからといって、素直にお店に顔を出す必要はないとわかっていても、ついつい足を向けてしまう。
お店に顔を出す度、私のためだけに用意してくれる、メニューには載っていない料理に舌鼓を打つ。
そして、相変わらずつかみどころのない言葉の中の優しさに触れる度、気持ちはぐっと輝さんに引き寄せられる。
その笑顔から目が離せなくなる。