極上の他人

それからどうやって会社まで戻ったのか、はっきりと覚えていない。

けれど、何もなかったかのように、「ただ今戻りました」と挨拶しながら自分の席についた。

ちゃんと電車に乗って、そして駅から会社まで歩いて、どうにか帰ってきたに違いない。

気付けば自分の席で営業部での打ち合わせの報告書を書いていた。

輝さんと真奈香ちゃんが二人で笑い合っている姿が目の前に現れないように、ひたすらパソコンと向き合い、集中した。

輝さんを好きだとはいっても、私はまだ輝さんのことを何も知らないことにようやく思い至る。

好きになってもらえないなら輝さんに深入りしないでいようと、自分を守るように距離を置いていたけれど、真奈香ちゃんと笑い合う輝さんを見て、どうしても輝さんの事が知りたくなった。

今更、なんだけど。

小一時間ほど過ぎただろうか、それとも10分程度の時間なのか。

感覚さえ鈍くなっている私の心は、思い出したくない光景を締め出そうと躍起になっていた。

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