極上の他人
「ふふっ。見た目が整っているのは誠吾さんの血筋を受け継いでるのね。それに、我慢強いところはおじいさん似だって聞いたけど、ふみちゃんは我慢しすぎよ。
仕事も必要以上に真面目に頑張るし、プライベートだって良くも悪くも受け身だし。
そのままだと自分の欲しいものを手に入れるなんてできないわよ」
「欲しいものって言われても」
欲しいもの。
小さな頃は、やっぱり母親からの愛情が欲しいな、と思っていたけれど、いつしかそんな気持ちは封印し、絶対手に入らないものとして考えるようになっていた。
耳に残る傷跡に触れるたび、母への思いを遠くにおしやって、自分を保っていた。
そして、欲しいものは手に入らないものだとどこかで思いながら大人になって。
手に入れたものと言えば諦め上手という自慢できない自分だった。
そんな自分をどうにかしたいと思わないわけでもないけれど、自分が傷つかずに済む唯一の方法だと知っているだけに、どうしようもない。