極上の他人
そのせいか、何かを欲しい、それを手に入れたいと思う時に、同時に心に浮かぶのは。
どうすればそれを簡単に諦められるだろうか、という後ろ向きの感情だ。
今の私が欲しいもの。
手に入れたいもの。
それは、……もちろん……。
「輝くん」
「え?」
俯き考え込んでいる私の顔を覗きこみながら亜実さんがそう呟いた。
その言葉に私の体は大きく跳ね、手元にあったワイングラスが揺れるほど震えた。
輝さんの名前を聞いただけでこんなに焦り、言葉を続けられないなんて、亜実さんの言葉をそのまま肯定したようなもの。
確かに、今私が欲しいものといえば輝さんだけど、亜実さんが簡単に察するほど私のその気持ちは露わなのだろうか。
自分の気持ちをそのまま言い当てられ恐々と視線を上げると、意味深に口元を上げている亜実さんがいた。
何度も小さく頷きながら、肩を震わせている。