極上の他人
「輝さん……」
私は輝さんの胸に、くぐもった声をあげた。
ほんの少し緩んだ腕の合間に顔を寄せて、何度か浅い呼吸を繰り返した。
「ほら、ふみちゃん息もできなかったじゃない。輝くんも、ふみちゃんのかわいらしさにやられるのはわかるけど、もう少し手加減してゆっくり攻めなきゃ逃げられちゃうわよ」
亜実さんの呆れた声を聞きながら、私は再び視線を輝さんに向けた。
目の前数センチのところにある輝さんの口元に気付いてはっとして思わず体を離そうともがいたけれど、輝さんの動きの方が早かった。
思わず輝さんの腕から抜け出そうとした私の背中に回した手に力が入った。
「逃がすわけないだろ」
ふっと苦笑しながら、輝さんは低い声で呟くと、私の頬をさらりと撫でて。
「亜実さんの希望通り、史郁とふたりきりになれるところに行くから」
そう言うが早いか、輝さんは私を抱いていた手をそのまま肩へと回す。
「じゃ、行くぞ」
「ちょ、ちょっと、輝さん、どこに……」
肩を抱かれた私は、輝さんに引きずられるように亜実さんの家を出て、そのまま強引に輝さんの車に乗せられた。