極上の他人
勢いよく背もたれに体を預け、すっと足を伸ばしたけれど、普段よりも足元が窮屈に感じた。
十分とは言えないまでも、ほどよくあった足元の空間が今日は狭く感じて体を起こすと。
ほんの少しだけど、輝さんと向き合う距離感もいつもとは違うように感じた。
助手席の位置がいつもよりも少し前に寄せられている。
そして、はっと脳裏に浮かんだのは真奈香ちゃんの顔。
「あ、そっか……」
私よりも小柄な真奈香ちゃんが、助手席の位置を変えたんだ……。
助手席に座り、オレンジが眩しいヘッドカバーに頭を寄せた真奈香ちゃんの姿が蘇り私の心を揺さぶった。
「そっか……」
思いがけず落ち込む気持ちに戸惑いながらも、この助手席は私専用というわけではないんだからと繰り返す。
輝さんが私以外の誰かをこの車に乗せたとしても、私に口を挟む権利はないんだから。
「そう……権利なんて、ないんだ」
私は俯き、口の中でぼそぼそと呟いた。
「史郁……?」
「あ、なんでもないです」
落ち込む私に気付いたのか、輝さんが小さく問いかける。