極上の他人
そんな状況だというのに、助手席の位置がいつもと違うせいか、普段見る横顔とは微妙に変わっていて。
整っている顔を、正面に近い角度から眺めることができると気づき嬉しくなる。
と同時に、やっぱり鼓動は速くなり胸が微かに痛む。
初恋だってとっくに済ませているし、恋人同士が交わす恋愛のあれこれだって、深いところまで経験しているのに。
どうして私の全身の血管を流れる血の温かさを感じられるほど、私の心は敏感になっているんだろうかと、不思議に思う。
輝さんが、好き。
改めてそう思いながらも、いつもとは違う助手席の位置が意味することを意識してしまって、気持ちは上がりきらない。
真奈香ちゃんの存在が、どうしても私の心を覆ってしまう。
好きだという気持ちと同じくらい、自分の存在の危うさに泣きそうになる。
私の沈黙を肯定と受け取ったのか、輝さんは大きなため息を吐き出した。
「史郁が悩んでいたら、俺はそれに気付く。それをどうにかしてやりたいと思う。今だって、運転してなかったら抱きしめて頭を撫でてやる」
「あ、あの。悩んでるなんて一言も言ってないし」
「もちろん、言われなくても気付くさ。俺はずっと史郁を見て来たんだ。それこそ史郁は気づいていなかったし、史郁をどうこうしようなんて思ってなかった」
「輝さん?それって……なんのこと……?」
「俺が史郁に気付かないわけがないってことだ。どんなに遠くにいても、視界の片隅にでも見えれば、すぐにそれは史郁だとわかるんだ」
「そ、そんなこと……」
何のためらいもなく、つらつらと言葉を車内に響かせる輝さんの声に、私一人が慌てている。