極上の他人
輝さんは、自分の言葉がどれほど甘いのか、きっと気づいていないんだろうな。
運転中だから、もちろん輝さんは私を見つめるわけもなく、前を見たまま微かな動揺すら感じさせない。
いつもはそれが寂しくて、赤信号に変わる度に会話の糸を手繰り寄せては話しかけていたけれど、私を見てくれることは滅多になかった。
そのことを切なく感じては、輝さんへの片思いに右往左往していたけれど。
今は輝さんと視線が絡み合わないことにほっとしている。
そして、車内の暗さにも感謝してしまう。
輝さんの口から何度も落とされる甘い言葉に、私の顔はきっと、緩みきって赤いに違いない。
そんな私の顔を見られずに済むことに感謝しながら、私は気持ちを鎮めようと何度か深呼吸をした。