極上の他人
どうしてこんな高級住宅街に連れて来られたのかもわからないし、輝さんに抱きしめられている理由もわからない。
真奈香ちゃんが輝さんの車の助手席に座っている場面を私が見ていたことも気付いていたなんて、思いもしなかったし。
そして、私の事を長い間見ていたと優しい声音で話されて。
「何がなんだか、わからない」
か細い声で、それだけを口にした。
輝さんと出会って以来、私が輝さんのことを知ろうとするスピード以上の速さで輝さんは私を混乱させて振り回してきた。
輝さんがどうして私に食事の用意をしてくれるのか、会社への送迎をしてくれるのか。
どうしてなのかわからないまま、私は輝さんの思うがままに動き、戸惑っていたけれど、その理由をちゃんと聞かなかったのは、私の狡さによるものかもしれない。