極上の他人


「あ、大丈夫か?力の加減ができなかったな。好きなんて言われて年甲斐もなく……ごめん」

輝さんは焦った声をあげながら、腕の力をゆるめてくれた。

「だ、大丈夫です」

「どこか、痛くないか?」

「はい。ちょっと息苦しかっただけで、平気です」

そう言いながら、私は何度か大きく息を吸って吐いて、呼吸を整えた。

その間も、輝さんの腕が私を解放することはなく、緩められたとはいえ、その腕に包まれたままだ。

そっと視線を上げると、憂いを帯びた瞳が私を見つめていた。

そして、どこか不安げな私の姿がそこにあった。

好きな人に抱きしめられて嬉しくてどうしようもないけれど、それを信じられないような、揺れている自分の感情がそこに映っていた。


< 307 / 460 >

この作品をシェア

pagetop