極上の他人
「あの頃、俺がお前を不安にさせてしまったことが一番の理由で、責任も感じているが、それが史郁さんを責めたり憎む理由にはならない」
鋭い言葉にお母さんは茫然となり、叩かれた頬に手の平を当てながら目を潤ませる。
唇を震わせながら見つめる視線の先は、真奈香ちゃんのお父さんであり、お母さんがずっと愛し続けている男性。
会社を経営しているというだけあって、どこか自信を感じる見た目と言葉。
その言葉は今、お母さんを叱咤し、私をかばってくれている。
お母さんが私に冷たい感情を向けることを叱りつけながらも、彼の表情もまた、苦しげだ。
「それに、真奈香の本当の母親になろうとして自分を追いつめるな。真奈香に嫌われたくなくて、自分が史郁ちゃんを捨てたことを正当化するような醜いことはするな」
「わ、私はただ、真奈香ちゃんが可愛くて、だから……」
「だから、実の娘を捨てたことを真奈香に知られて焦ったんだよな」
「そ、それは……」
お母さんは唇をかみしめ、俯いた。
それ以上何も言わずにいるところを見ると、真奈香ちゃんのお父さんに言われたことはその通りなのかもしれない。
お母さんの傍らに寄り添う真奈香ちゃんは、二人のやりとりを見ながら泣き出しそうになっていた。