極上の他人
「真奈香ちゃんのお母さんが史郁を見捨てたことを謝罪しても、史郁が母親という存在を手に入れるわけじゃない。過去からの苦しみを、一瞬だけ和らげるだけの謝罪ならいらないんだ。それに、真奈香ちゃんのお母さんが側にいなくても……」
すうっと、大きく息を吸ったとわかるほど、輝さんの胸が上下した。
顔を埋めているせいか、直接伝わるその動きに顔を上げると、私をじっと見る輝さんの瞳があった。
いら立ちを隠そうとしているのか、細められたその瞳から目が離せない。
あまりにも近い距離が恥ずかしくて顔を背けそうになったけれど、そうはさせてくれない強い視線に射られ瞬きすら躊躇してしまった。
輝さんと視線を絡ませ合ったままじっとしていると、輝さんは私を安心させるような笑顔を見せて言葉を続けた。
「母親がいなくても、たとえ捨てられたとしても、史郁は幸せになれるんだ。
というより、実の娘の心や体を傷つけても平気な母親の側にいるより、史郁を愛して大切にする人間の側にいた方が幸せだ。
たとえそれが他人だとしても、史郁にとっては極上の他人なんだ」
輝さんの言葉はスマートフォンの向こう側にいる真奈香ちゃんに向けられているけれど、、視線は相変わらず私に向けられたままだ。