極上の他人


たとえ私が傷つくことがあったとしても、既に私は大人なんだから、輝さんがそこまで心配しなくても大丈夫。

それに、私が本気で拒めば輝さんがそれを押し付けることもないと思う。

……思うけれど、目の前の輝さんの瞳の力を見れば見るほどその本気度を実感して不安になる。

「輝さん、私を守ってくれるのはありがたいけど、私は大丈夫だから。
輝さんの大切な時間を私の為にばかり使わなくても平気」

「大丈夫だとか平気だとか、口でなら何とでも言える。
それに、俺がそうしたくて大切な時間を史郁のために使ってるんだ。
惚れてる女のためなら、それぐらい当然だろ?」

「ほ、惚れてる……」

輝さんの膝の上に横座りしている私は、その言葉に体中の力が抜け、すとんと輝さんの胸に倒れこんだ。

これまで好きだという言葉を何度か聞かされ、半信半疑ながらも嬉しく思っていたけれど。

『惚れてる』……それはなんて強力な言葉だろう。

私の脳内では今、その言葉が何度もリピートされている。

「史郁は、突然目の前に現れた俺に振り回されて戸惑いばかりだったかもしれないけど、俺は長い間、史郁のことを気にかけていたんだ。確かに最初は誠吾先輩の姪っ子だっていう、保護者意識しかなかったけど、お見合い……かどうかは微妙だけど、再会して。
大人になった史郁に惚れたんだよ」

「……本当?」

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