極上の他人
お母さんがお店に来た時、カウンター席に私がいたせいで、焦ったに違いないけれど。
私が良かったと思わず口にした理由は、そのことじゃない。
確かに心の準備もできていなかったあの日、お母さんと顔を会わせたくはなかったけれど。
私が良かったと思ったのは、お店から連れ出した女性が、輝さんの恋人ではなかったということだ。
そのことを理由に輝さんから離れようとしたほどの出来事だった。
輝さんがお母さんの後ろ姿しか見せなかったのは輝さんの気遣いだったとわかるけれど、もしもお母さんの顔を見ていれば……誤解もせず悩まずに済んだのかもしれない。
けれど、別の意味で驚き悩み、苦しんだかもしれないし、もしかしたら、私が恋しくなって会いに来てくれたのかもと、期待していたかもしれない。
輝さんは、私にそんな期待をさせないためにも、私がお母さんに気付かないようにしてくれたんだろう。