極上の他人
そして、坂道を登りきったところに見えてきた駐車場。
10台分の駐車スペースがある、それほど大きくはない場所。
今は6台しか並んでいないけれど、既に10台分全ての契約は終了していると聞いている。
近隣の人たちが借りているというこの駐車場は、私が大学時代に造られた。
私が幸せな時を過ごした家が取り壊されただけでなく、大好きだった桜の木も切り倒されてしまったこの場所に来るたび心は痛み、目の奥は熱くなる。
思い出が全て消えるわけではないけれど、大切にしていたものが目の前からなくなるというのは本当に悲しくて、それまで自分が居た場所、よりどころにしていた物が取り上げられた子供のように泣いた。
既に成人した大人の自分があれほど激しく泣いたことを思い返す度、幼いころの自分は本当に幸せだったんだと思う。
そして、そんな感情をどうにか落ち着かせて数年が経ち、今では目の前の現実に向き合うこともできるようになった。
そこにはない桜の木を探してしまうクセはまだ消えていないけれど、以前ほどの動揺や悲しみは感じなくなっていると気付く。