極上の他人
じいちゃんとばあちゃん、そして誠吾兄ちゃんと暮らしていた家がここにはないということを受け入れている自分に、ほんの少しの寂しさも感じる。
けれど、一方ではそんな自分の成長にほっとする。
自分が置かれている現実をようやく受け入れ、穏やかに日々を過ごせることの幸せを実感する。
そして、この場所から見える景色に視線を移した。
高台にあるこの場所は車がないと不便だけれど、それでもここから見える風景にはその面倒な部分を補っても余りあるものがある。
眼下に広がる風景にぼんやりと気持ちを解放させ、何度か深呼吸をしているうちに心も鎮まり穏やかになっていく。
今では家も桜の木もないこの場所だけど、目の前に広がる景色は何も変わっていない。
その変わらない景色に心を癒してもらい、幸せだった時を思い返すために、そして、前向きに生きていくために。
心が折れそうな時にはいつも、こうしてここに立つ。