極上の他人
むくむくと湧いてくる強さ。
私が現実と立ち向かって、大人になるまでに身につけなければならない幾つかのことを教えてくれた桜の木。
見上げるだけで抱きしめられているような安心感を覚えた太い幹。
その匂いに癒されて、涙を拭う勇気をもらったあの頃。
両親に捨てられたのなら、自分で家族を作って幸せになればいいと、教えられたあの頃。
誠吾兄ちゃんは私の行く末を心配して、機会あるごとにそんな意味の言葉を言っていた。
さすがに小学生の頃はその言葉の意味を理解できずにいたけれど、私の将来はそれほど悪くないのかもしれないと感じていたのは確かだ。
両親に捨てられたとしても、そのことによって私の人生を不幸なものに染めていく必要はないし、悲観することもないと地道に教えてくれた。
そして、輝さんからも同じ言葉を言われた。
あの夜以来、まるで私を励ます言葉はそれしかないとでもいうように、何度も同じ意味の言葉が輝さんの口からこぼれた。