極上の他人


あの夜……それは、真奈香ちゃんにお願いされて、輝さんが私を母の家に連れて行ったあの夜。

私を気遣うこともなく傷つける言葉ばかりを投げつける母に耐えきれなくて、『帰る』と呟いて輝さんにしがみついていた私。

そんな私に、輝さんは「ああ、帰ろうな」と言いながらも、目の前にいた三人に聞かせるように、私の耳元に甘い言葉を落としてくれた。

『確かにこの人たちにとって史郁は不要な人間かもしれないけど、俺には大切で愛しくて、いつもこうして抱きしめていたい必要な人間なんだ。俺が側にいるだけじゃだめか?俺が史郁を必要だと思うだけじゃだめか?』

真奈香ちゃんや母たちの目の前で私を抱きしめ、そう呟いた輝さんの言葉は、固い氷で覆われていた私の心を少しずつ溶かしていった。

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