極上の他人
自分の中にある母への思慕を完全に断ち切ることは無理だとしても、母からの影響に右往左往しながら大切な時間を無駄にしてはいけないと、ようやく思えるようになった。
そして私の中に顔を出したのは、これまで自覚することがなかった強さだった。
幼い頃感じた風の柔らかさを今再び感じながら、母への切なさや苦しさの影に隠れていた自分の強さを取りこぼさないよう気を付ける。
「とにかく、仕事を頑張らなきゃ」
既に切り倒された桜の木を思い出して、そう呟いた。
自分の力で幸せになるためには、まずは地に足をつけてしっかりと生きていかなければいけない。
自分の生まれや境遇がどうであれ、それが仕事をないがしろにしていい理由にはならない。
小さな頃、自分はなんてかわいそうな子供なんだろうと悲しみ、未来への希望を持てずにいたけれど、そんな悩みは不要だったと今ならわかる。