極上の他人
③
坂道を下る気持ちはどこか緊張して重いけれど、それもそのはず。
私が初めてひとりで担当する家の設計案を上司に提出し、判断を仰いでいた。
今日はその最終決定がなされる日だ。
きっと、この仕事だけで私のこれからが決まるわけではない。
設計の仕事をこれからも続けていくうえで、それほど大きな影響を残すものではないともわかっている。
まだまだ勉強していかなければお客様に対して胸を張ることができる設計をすることはできないともわかっているけれど。
入社してから初めての大きな仕事であり、一生忘れらない案件になる。
だから、どんな結果が返ってこようとも、しっかりと受け止めてこれからの自分につなげていこう。
そう自分に言い聞かせ、自分を励ましながら歩みを速めた。
すっと通り抜ける風の優しさは、桜の匂いを相変わらず感じさせるようで、そして。
『幸せになりなさい』
じいちゃんとばあちゃんの声が聞こえたような気がした。