極上の他人
少し荒い呼吸を隠そうともせず、輝さんは額を私の額にこつんとぶつけると。
「まあ、どんな格好をしたって俺は史郁にめろめろだ」
そう言って、掠めるようなキスをした。
くくっと小さく笑い、恥ずかしくて何も言えない私をぎゅっと抱きしめた。
そして、私の耳元に口を寄せると、甘い声で囁く。
「コスプレの終着点は、ウェディングドレスだからな。それだけは、本番までとっておけよ」
「ウェディング……」
「ああ。その日が待ち遠しい。……さ、その日を楽しみに、仕事を頑張ってこい。
そんなに赤い顔をしていると、からかわれるぞ。なんせここは会社の真ん前だからな」
私のシートベルトをカチャリと外しながら肩を震わせ笑う輝さん。
やっぱり……輝さんには敵わない。
私は小さく息を吐き、気持ちを整えると。
「行ってきます、輝さん」
自分で自分を力づけるように、そう呟いた。
今はまだ家族ではない、家族に一番近い人。
愛してやまない極上の他人に、極上の笑顔とともに。
【完】