極上の他人



『設計デザイン大賞』を受賞して以来、私に向けられる周囲からの期待は大きなものとなった。

社内の大きなプロジェクトの幾つかに召集され、学生時代から憧れていた手の届かない存在である建築士、相模さんと共に仕事ができる機会を得て、貴重な勉強をさせてもらった。

目の前の図面と法律にばかり目がいきがちな私の狭い視野をやんわりと指摘し、「仕事というよりも、お客様と向き合う一人の人間として設計をしてごらん」と。

相模さんに教えられる以前から、弱みであるそれを自覚していた私は「やっぱり、私はまだまだだ」と落ち込んだけれど。

相模さんは優しい笑顔を向け、「大賞を受賞するだけの底力はあるから、自信を持ちなさい」と励ましてくれた。

底力……。

それは私に本当に備わっているのだろうかと、心細くなる。

< 423 / 460 >

この作品をシェア

pagetop