極上の他人
「だって、大賞が欲しいと思ったのは、輝さんにプロポーズするためだったから。火事場の馬鹿力っていうか……人間、切羽詰まるとなんでもできるというか」
私は大きくため息を吐いた。
「もう、逃げたい、こんな無茶な要望ばかりの家の設計なんて無理。この要望の全てを叶えた家を建てられるなら、私が住みたいよ」
パソコンを睨んでいたせいで疲れた目をこすりながら、手早くマウスを操作した後、私は転げ落ちるように椅子から離れ、その場に寝転び体を伸ばした。
毛足が短めのラグの上にあおむけに寝ながら、「無理だもん、無理だもん、絶対に描けないもん」と呪文のように唱えていると、目の奥がじんわりと熱くなる。
泣きそう、というか、既に泣いてるかも。
仕事で行き詰まって泣くなんて滅多にないけれど、今手がけている仕事には泣かされっぱなしだ。