極上の他人



営業がお客様から受けてきた注文は、無理難題の詰め合わせで、構造計算上の不可能や建築基準法のルールを全く無視したもの。

営業にもそれに関する知識はあるはずなのに、どうしてそれをお客様に伝えないんだろう。

『可能な部分だけでも取り入れた図面をあげて欲しいんだけど』

そう言って頭を下げられ受け取ったけれど、お客様の要望の半分は不可能なもの。

窓の位置や大きさも、家の構造に関わる計算で決められるというのに。

「もう、やだやだ」

実際に涙をこぼすのは今が初めてだけど、この一週間、何度心の中で泣いてきたことか。

設計デザイン大賞のおかげで、私の名前ばかりが独り歩きしてしまって、私の持つ実力以上の評価に基づいた指名をいただいている。

ありがたいとは思うけれど、どうしても、プレッシャーを感じて逃げ出したくなる。

< 425 / 460 >

この作品をシェア

pagetop