極上の他人
「たまたま隣に座っていた男の子の実家が地方で日本酒をつくっていて、長男の彼は後継ぎだったんです。
でも、彼はどちらかというと日本酒よりもバーボンに興味があるから複雑だ、みたいな話になって。
で、彼のおすすめのバーボンがお馬さんで。あ、あとバラの花がラベルに描かれているのとか」
「ああ、バラね……」
「で、この前ここに来た時に、千早くんもバーボンが好きだって言うので、その話になって……」
バーボンと言っても味の違いが良くわからない私は、唯一見た目がかわいいお馬さんを記憶していた。
それは、ボトルキャップが馬の形で、競走馬が走っている様子を表していた。
その競走馬にはジョッキーも乗っていて、その場にいた女の子たちみんなの目を引いた。
私もその一人で、珍しいキャップに興味を持ち、それ以来バーボンという響きに身近なものを感じるようになった。
「へえ、今の若い子たちは、合コンでいい酒を飲んでるんだな」
「あ、その時はたまたまなんですよ。普段は居酒屋でビールとか焼酎だし」
「……そんなに合コン行ってるんだな」
「え?あ……亜実さんがわが社にいる限り、合コンから完全には逃げられませんね」
「あ、そ」
言葉少なに肩を竦めた輝さんは、
「亜実さんも……ちょっとは考えろよ………」
「え?」
「いや、なんでもない」
それ以上の質問は受け付けないとでもいうようなはっきりとした声音に驚いた私は、そっと俯いた。