極上の他人


何か気に障ることでも言ったかな、と思い返すけれど特に輝さんを怒らせるようなことは言っていない。

それなのにどうしてこんなに機嫌が悪いんだろう。

答えを出せないまま、カウンターの木目をぼんやりと眺めていると。

「悪い。忙しくていらついてるのかもな。ふみちゃんのせいじゃないから、ゆっくり食べていって」

いつもの声といつもの表情で、輝さんは私の頭をぽん、と叩いた。

それを見ていた千早くんは、明るすぎる声で呟いた。

「で?バーボン、飲む?」

そんなこと、すっかり忘れていたなと思いつつ、輝さんの態度に右往左往させられて切ない気持ちが溢れている私は、お酒の力でも借りて気分を上昇させたくて。

千早くんに向かって大きく頷いた。

「じゃ、食事の前に、少しだけな」

千早くんはそう言って笑ってくれたけれど、ちょうどその時、バイトの男の子から声をかけられて申し訳なさそうに私を見遣った。

「ふみちゃん、悪い。しばらく待っていてくれる?俺、先に注文の酒を作ってくるから」

そう言うと、カウンターの向こう側へと消えていった。

その後ろ姿はやはり忙しそうで、店内の喧騒そのままだ。

普段から混み合っている人気のお店。

食事だけを目的に来るにはふさわしくないお店だと改めて感じて居心地が悪くなった。


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