極上の他人
「あ……。亜実さんは、輝さんのような年上の男性が私の家族になってくれたら手っ取り早くて安心だって言ってたんで、きっとそれが理由です。
今日、会社で会った時に、そう言って笑ってました」
「手っ取り早いって、かなり安易だな。それに、ふみちゃんだって、結婚なんて考えてないだろうし、もうしばらく遊びたいんじゃないのか?」
「……遊びたいのかどうかは、わかりませんけど、職場ではまだまだ未熟者なんで、勉強したいとは思ってます」
俯いて、小さな声で呟いた。
輝さんが疑問に思うのは至極当然だと思うし、就職したての私が家族を持つなんて早すぎると、誰もが思うだろう。
ただ、私の事情を多少知っている亜実さんだけは、そう思わなかったようだけれど。
新入社員研修を終えて配属されてすぐ、緊張感からか貧血で倒れた私は、医務室に運ばれた。
たまたま頭痛でお薬をもらいに来ていた亜実さんがそこにいて、「今日は帰ったほうがいいよ」と言って私の家族に連絡しようか、と声をかけてくれたことがきっかけで、ぽつりぽつりと言葉を交わした。
困っている人を放っておけない亜実さんの軽やかな声と、眩暈でぼんやりとしていた私の意識の曖昧さが重なったせいで、私は滅多に人には話さない自分の身の上を亜実さんに話していた。
私にはすぐに連絡がつく身内がいなくて、一人暮らしをしていると曖昧に言った程度だけど。
それ以来、亜実さんは私のことを必要以上に気にかけ、まるで妹のように接してくれる。