極上の他人
ううん、答えられなかった。
動揺した心を隠すことには慣れているし、とっさに作った笑顔を見ても、輝さんは何も言わなかった。
すっと細められた瞳の奥から、私を訝しがる光が見えたけれど、何も聞かずにいてくれる。
そして、店内のどこかから響いたバイトの男の子の声に答えると、「悪い」そう言って、店の奥へと歩いていった。
途中、何人かの女の子に声をかけられて、その度に軽く手を挙げ笑顔を向けている様子をぼんやりと見る。
混み合う店内に溶け込むようにしなやかに歩くその背中はとても軽やかで、私との距離がさらに開いていくような気がした。
私の瞳の奥が次第に熱くなっていく。
輝さんは、時折バイトの男の子に何かを伝えながら、そして時には厳しい表情も見せながら、生き生きと仕事をしている。
その姿を眺めていると、自分はこの場所には必要ではないんだな、と重苦しい感情に囚われていく。
輝さんにとって私は単なる顔見知りに近い存在であると同時に、亜実さんからお願いされた年下の女の子。
どちらかと言えば、面倒くさい存在なのかもしれない。
そう思った瞬間、もうこのお店に来るのはやめようと、決めた。