極上の他人
大切なものは、いつもこの手から零れ落ちる。
欲しがれば、その想いの強さの分だけそれは遠ざかっていき、その度に諦めの涙を流していた。
小学生の頃両親が離婚して、私は母親の実家に預けられた。
祖父と祖母、そして母の弟である誠吾兄ちゃんと一緒に暮らす毎日は、それまで両親から育児放棄されていた私にとっては天国のようで、温かい時間だった。
家族はお互いを気にかけ、優しさを分け合いながら生きていくものだという、当然のことを知らなかった私には、預けられた当初は戸惑いばかり。
新しく家族となった三人から笑顔を向けられても、それをどう受け止めていいのか、そしてどう反応すればいいのかもわからなかった。
私の頭を撫でてくれる家族の手に何も言えず俯く私に、根気よく言葉をかけてくれたじいちゃんとばあちゃん、そして誠吾兄ちゃんのおかげで私は人並みの感情を持てるようになった。
嬉しいときには嬉しいと言って笑ってもいい。
悲しいときには我慢せずに泣いてもいい。
そして、目の前にいる人の瞳をまっすぐに見ながら話すことはとても大切だと少しずつ学んでいった。