極上の他人
それに、苦しい就活の末にようやく手にした内定を、無駄にする気にはなれなかった。
じいちゃんとばあちゃんが亡くなって、私の唯一の身内となった誠吾兄ちゃんがアメリカに行ってしまうという不安は大きかったけれど、それ以上に日本から離れたくなかった私。
頑として誠吾兄ちゃんの誘いを断っていた。
そんな私に誠吾兄ちゃんは寂しさを隠そうともせず、大学卒業を控え職場に近い場所で部屋を探していた私に
『じゃ、俺が住んでいる部屋に住め』
と言って、強制的にそれを決めた。
誠吾兄ちゃんが恋人との結婚を見据えて購入していたこのマンションは、築年数も浅くてまだまだ綺麗だ。
誠吾兄ちゃんの奥さんとなる弓香さんも私を心配してくれて、『誠吾の部屋に住まないのなら私が日本に残ってふみちゃんと一緒に暮らすから』
そんな脅し文句のような本気をぶつけてこられては、頷くしかなくて。
誠吾兄ちゃんは私がようやくそれを受け入れた途端、早々に私の荷物をマンションに運び入れてしまった。