極上の他人
たとえ私が誠吾兄ちゃんの部屋に住んだからと言って私の安全が完全に確保されるわけではないけれど、少なくとも私がどんな環境で生活しているのかがわかっているのは安心だ、と言っていた。
出発するまでずっと私のことを気にかけていた二人が渡米してすぐに、私はこの部屋で暮らし始めた。
小さな頃から暮らしていたじいちゃんとばあちゃんの家は、老朽化が進んでいたこともあって、二人が亡くなったあと取り壊して土地を近所の人に売ってしまった。
その土地は今、駐車場になっている。
土地だけでも残しておけば、将来誠吾兄ちゃんが家を建てて家族と住むこともできるのに、と止めたけれど、誠吾兄ちゃんは小さく笑って思い出も多いに違いない場所を、手放した。
『俺は転勤が多いし、史郁だって嫁に行ったら旦那の家の人間になるんだ。将来、扱いに困るものは早めに処分しておいた方がいいんだよ』
私が嫁に行くなんて想像もできないし、そんなことないかもしれないと、本気で思っているのに、私が嫁に行くことを心から望んでいる誠吾兄ちゃんは、そう言った途端その日を想像し目に涙を浮かべていた。
ふふっ。
私がもしも嫁に行くとなったら、かなり泣きそうだな。