極上の他人
輝さんから手渡された紙袋を両手でぎゅっと握りしめたまま、何も言えずに俯いていると。
「それと、金曜のお金、返しておくよ。何も食べてないのに、それに、いつもお金はいらないって言ってるのにどうして突然置いて帰ったんだ?」
ほんの少しだけ厳しい口調に変わった輝さんの声に、ぴくりと身体が固まった。
そんな私の様子にため息をついた輝さんは、紙袋を持ったままの私の右手をそっと握ると、紙袋の持ち手からそっと外してお金を握らせた。
「このお金は、もらえないよ。それに、ふみちゃんの夕食くらい、毎日でも俺がごちそうしてあげるのに。お金なんて気にするな」
言葉は優しいのに、見上げた輝さんの表情はどこか硬くてつらそうに見える。
「でも、それじゃ、お店に行きづらいからだめです」
「そんなこと考えずに、気楽に来ればいいんだよ」
「そう言われても、私は……」
私は、結婚まで進めることもなく途中下車した単なるお見合い相手にしか過ぎない。
普通なら、仲人さんに気持ちを伝えて二度と会うこともないだろう相手なのに。
仲人さんというと、私たちの場合は亜実さんなのかな。
確かに、私は自分の気持ちを亜実さんに伝えていないけれど、輝さんがお見合いを進める気はないと伝えたと聞いて、私は自分の気持ちを封印した。
私のことは、かわいい年下の女の子、それだけだと遠まわしに亜実さんに伝えたと聞かされたのに。
それなのに、どうして私のことをこんなに気にかけてくれるんだろう。