極上の他人
どうにか平熱に戻り保っていた気力も使い果たして、足元から力がどんどん消えていくような感覚に囚われる。
鼓動の音が激しくて、吐き気と眩暈に視界がぼやけていく。
ふわりと揺れた私の体はそのまま輝さんへと倒れこんだ。
慌てた輝さんに支えられた私は、自分の意志に反して体を預けてしまった。
「どうした?気分が悪いのか?」
輝さんが焦った声をあげる。
「だ、大丈夫です、ちょっと貧血かな……」
「突然来て悪かったな。部屋でゆっくり休め、……入っていいか?」
輝さんは、具合の悪い私を抱きかかえて、探るように問いかける。
「あ、大丈夫です、しばらくゆっくりしていれば、治ります。もともと貧血気味なので、きっと……」
「歩けるか?」
「あ、はい、たぶん……」
私を支えてくれる輝さんから離れて、一人で歩こうとするけれど、本当に熱がぶり返したのか、足元がおぼつかない。
そんな私の体を包み込んでくれる輝さんの胸に顔を埋めた。
輝さんは、私の背中を優しく撫でて「無理するな」と耳元でささやく。
そして、呼吸の合間に苦しげな声で「ごめんなさい」を繰り返す私の膝裏に手を差し入れると、軽々と抱き上げた。