極上の他人
「え、ひ、輝さん……大丈夫です、歩けます」
ふわりと抱き上げられて驚いた私は慌ててそう言った。
けれど、輝さんの顔があまりにも近くにあることに驚いて、うまく声を出せなかった。
輝さんは、そんな私に構うことなく私を寝室へ運び、そっとベッドにおろしてくれた。
「何か持ってくるから、とりあえず寝てろ。冷蔵庫に飲み物入ってるか?」
「あ、はい……。あの、どうして、寝室の場所がわかったんですか?」
私の体に毛布をかけてくれる輝さんに、そう尋ねた。
迷うことなくまっすぐ寝室まで私を運んでくれたことが気になった。
輝さんは、私の言葉に一瞬躊躇する表情を見せたあと小さく息を吐いた。
「マンションの間取りなんてどこも似ているからな、この部屋が寝室だろうと思ってドアを開けたら、ビンゴだったってこと。深い理由なんて、ないから」
「あ、そうなんだ……」
確かにこの部屋はオーソドックスな間取りだし、マンションの部屋の振り分けなんて、みんな似たようなものなのかな。
確かに、玄関から入ってすぐの部屋って、寝室にしやすい場所なんだろう。
誠吾兄ちゃんが住んでいる時もこの部屋が寝室として使われていたから、そのまま私もこの部屋にベッドを入れたけど、そうか、みんなそうなんだ。