極上の他人
客商売に慣れているんだろう、どう見ても営業スマイル全開で、これまた写真通りの、どこか腹黒そうなオーラを漂わせた男性。
「おひとりですか?」
ちょうどお客様にドリンクを運んでいたのか、手にしていたトレイを片手で持つと、猫のようなしなやかさで私に近づいてきた。
時間にしてほんの数秒、私はその様子をじっと見ていた。
「ただ今テーブル席は満席ですので、カウンター席でもよろしいでしょうか?」
私の目の前に立った『輝さん』は、それ以外の選択肢はないとでもいうような、優しい強引さで首を傾げた。
このお店で飲めるのならテーブルでもカウンターでもどっちでもいいという女の子ばかりを見てきたに違いない。
私がカウンターでもいいという事を当然だと思っているのか、既にカウンターの向こうにいる男の子に、何やら視線で言葉を投げている。
「ちょうど良かったです。これ、とりあえずお断りしようと思って来ただけなんです」
私は鞄の中から、亜実さんから押し付けられた釣書と、写真を取り出した。
「で、このお見合いを断った場合、何か困る事はありますか?もしあれば、そのことも合わせてお話を」
強い口調の私に輝さんは一瞬たじろいだけれど、それもほんの束の間。
私の瞳に弱気な光でも感じたのだろうか、すぐに体制を整えた。
そして、どう見ても作り笑顔にしか見えない顔で私を見つめながら、思わせぶりに目を細めると。
「困ることと言えば、そうですね。こんなにかわいらしい女性との縁がなかったことに傷つく、ということでしょうか?」