極上の他人
「ごめんなさい。輝さん、忙しいのに……それに、私は単なるお客で……お見合い相手で」
熱のせいでぼんやりしているせいか、自分でも何を言っているのかわからないまま言葉が零れ落ちる。
「お店の外でまで、迷惑をかけてごめんなさい」
小さな声で呟くと、自分の言葉に自分で傷ついて、つらくなった。
きゅっと結んだ口元を隠すように、顔を枕に埋めた。
すると、私の頭をぽん、と撫でた輝さんの声が聞こえた。
「俺は、店のお客とは店以外で会わないし、ふみちゃんのことを単なる見合い相手だとは思ってない。もしもそうなら、もっと簡単に距離を置いてる」
子供に言い聞かせるような声音は私を女とは見ていないようでやっぱり傷つく。
けれど、聞かされた意味を理解するにつれて、少しずつ心が温まっていく。
お客さんとは個人的な付き合いがないということに、ほっとして、口元が緩んだ。
それに、単なる見合い相手だとは思っていないと言われて。
だったら私をどう思っているんだろうと、新しい不安も生まれるけれど、それでも輝さんの声からは優しさしか感じられない。
その優しさも、つらいけれど。