秘密の言葉
「花…」

後ろから、名前を呼ばれた。
振り返らなくても、声で分かる。

「っ…水木君!」

私は正直、複雑だった。

「花、なんか元気ない…」

水木君は私の事、どう思ってるんだろうか。

「水木君に、会いたくて!」

「…ありがとう」

その一言が、聞きたかった。
そして、そうやって頬を染める水木君が、大好きだ。

「水木君、手…触っていい?」

「…恥ずかしいな」

そういいながらも、そっと右手を差し出した。
大きくて、細っこい。

「水木君の手…冷たいね」

「冷え性だから、いつも手足冷たいんだ」

でも、大きいから…包んでくれてる様で、温かくも感じる。

「水木君…恵美と会った?」

一瞬、ためらった様な表情を見せる。

「空ちゃん?初めて声掛けられて、ビックリしちゃった」

「…その事でさ、謝りたいの」

返事はせず、首を傾げた。

「恵美に…水木君の名前、言っちゃった」

少しの沈黙の後、水木君は手を離して俯いた。

「花は、約束を守ってくれると思ってたのにな…」

そう言い残して、去ってった。
私は追いかけることも、返す言葉も無い。
__それから、水木君とはあまり会わなくなり、教室でも1人ぼっち。
2学期の始業式までの生活に、逆戻りした。
2人との距離が、ぐんと遠ざかって…本当に、秋は嫌いだ。
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