秘密の言葉
________。

「やっぱり、いないかな…」

このまま帰ればよかった。
見つけたら、無視することもできない。
あえて嬉しいはずなのに、胸が苦しい。

「…花、久しぶり?」

「久しぶり…水木君」

私は、ちょっとずつ水木君の方へ足を運んだ。
水木君は、冷たい地面から立ち上がって、私の方へ向かってくる。
私が一定の距離で止まると、水木君も足を止めた。

「水木君は、何で学校に行くの?」

「…あそこの生徒だから」

「何でサボってばっかなの?」

「…行けないから」

「何で、行けないの?」

「…家庭の事情」

「何で、私達と同じ制服を着てるの?」

「…同じ生徒だから」

「じゃあどうして!…名簿にあなたがいないのっ?……」

「…それは、分からない」

どうして、分からないの。
どうして、こんなに遠いの。
何も分からない。
あなたがどんな人で、本当はどういう人なのか。
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