空も飛べるはず【短】
「あれ、江藤どこ行った?」
「さき行ったんじゃね?」
そんな声が聞こえて、ついに足音がひとつも聞こえなくなったとき、気づいた。
きみの両腕が、あたしの背中を押し付けた壁に、べったりくっついていた。
目の前にあったのは、きみのジャージの胸にあるロゴの刺繍。
こ、こ、これっていわゆる壁ドン~!?
冬なのに、全身の体温が上がっていく。
きみとの距離が近すぎて、その心臓の音が聞こえてきそう。
耳の後ろの血管が膨張しすぎて、ごうごう言ってる。
「……こんなところで、なにしてたんだよ?」
きみは壁ドンしたまま、あたしの顔を至近距離でのぞきこむ。
あたしは長いまつげの下の黒い瞳に吸い込まれそうになる。
「あああああ、あの、図書室に充電器を、忘れていったでしょ。
困ると、思って、持って、きましたん」
緊張して変な日本語になってしまうと、きみはふうとため息をついた。
それがあたしの前髪を揺らして、余計に心臓がバクバクいう。
「そんなの、月曜でよかったのに。
ここに来たらあいつらに見つかるじゃん」
「あ……」