空も飛べるはず【短】
振り返ったところで呆れた顔をしているのは、もちろんきみで。
あたしはたちまち赤面して、声がオクターブ高くなってしまう。
だって、男子と話すのってすごく緊張するんだもん……助けてなんて、言えなかった。
男子って同じ人間のはずなんだけど、あたしには自分と全く違う異星人のような気がしてる。
声が低くて、体が大きくて固そうで、その感触は全く想像つかなくて、ちょっと怖い。
「お前、本好きなんだな」
うつむいていると声がかけられて、あたしはおそるおそる小さな声で答える。
「うん、好き」
「いっつもなんか読んでるもんな。何がそんなにおもしれーの?
俺、本なんか大嫌いだ。活字が並んでるの見ると、眠くなる」
そうだろうね。知ってるよ。
「で、でも、あの、疑似体験できるから、現実逃避にちょうどいいっていうか……」
「?どういうこと?」
「たとえば、ピーターパンとか読んでいると、自分も空を飛んでいるような気分にならない?」
勇気を出して顔を上げる。
するとそこには、眉をひそめたきみがいた。
「……ならねーな」
秒殺。
でもなんとか会話を続けたくて、あたしはがんばる。
「妖精がいるかもって思うと楽しくならない?もしかしたら江藤君のポケットにいるかもしれないよ?」
「……病院行ってこいよ」
ちーん。病院行ってこいだって……。