インビジブル・ビート
「ここで食お」
「……うん、」
コンビニ横の狭い駐輪スペースに自転車を止め、手早く買い物を済ませたわたしたちは、歩道沿いのガードレールに腰を下ろした。
結局わたしは、菓子パンコーナーで見つけたミニドーナツを買った。りょーたは肉まんにしたらしい。
袋から取り出された肉まんがほかほかと立てる、白い湯気。
食欲をそそる薬味のにおいが柔らかく鼻先をくすぐってくる。
一口かじってみた砂糖まみれのドーナツは、甘ったるくて、少しパサパサしていた。
「どっちが告白したのかな」
「なにが?」
「児嶋くんと瑞希ちゃん」
ああ、と頷きながら、りょーたはもごもごと口を動かす。
「どっちだっけ。たしか、瑞希からだった気がする」
「ふーん……」
……そんなこと聞いてどうする、わたし。
別にどっちからだっていいのに。どっちがどっちを好きだったかなんて、興味ないのに。
いつもなら。
「なあ、それうまい?」
わたしの手に握られた、食べかけのドーナツ。
物欲しげに見つめてくるりょーたに差し出せば、彼は遠慮なくかじりついてきて。
「ん、なんかこれ口の中の水分取られる」
はは、と笑いかけてきた彼に、わたしはどこかぎこちない笑みしか返せなかった。