インビジブル・ビート
 


ドーナツ。瑞希ちゃん。
瑞希ちゃんに彼氏ができた。

手を繋いで、帰ってた。


りょーたのスポーツバッグにはいつも、瑞希ちゃん手作りのマスコットがぶら下がっている。

小さなフェルトのバスケットボール。真ん中にはイニシャルの刺繍入り。バスケ部の男子がみんな、おそろいで鞄につけている、かわいいお守り。

女バスのマネージャーも同じようなものを作ってくれたけど、なんだか不格好で。
瑞希ちゃんは器用だな、って思った。すごく。

少し小柄で、ふわふわしてて、女の子らしくて。

でも彼氏はいなかった。


いなかった、から。



「お似合いだよね、ふたりとも。瑞希ちゃんに彼氏ができるならぜったい児嶋くんだよね、ってみんなで話してたんだー、っ、」

残りのドーナツを一気に口の中に詰め込んだせいで、ちょっとむせた。
りょーたが肉まん片手にごしごしと背中をさすってくる。


……あーあ。
なんでわたしはこんなに、余裕がなくなってるの。

なんでこんなに、



「ちい、さっきから児嶋たちの話ばっかだなー」


おれ妬いちゃうわ。

ドーナツを飲み込み、また開こうとしたわたしの口に。
冗談めかしてそう言いながら、りょーたはズイ、と自分の肉まんを押し付けてきた。


 
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