インビジブル・ビート
 


「こ、ここでするの!?」
「ここでします」
「……わたし、はじめてなんですけど」
「大丈夫、おれもしたことありません」

うん、知ってる。お互い、はじめての彼氏彼女だもんね。

けれどもりょーたくん、わたしが言いたいのはそんなことではないのです。

「ここ、コンビニなんですが」
「気にすんな。ここはコンビニじゃないって念じながらさっさと目閉じろ」
「そんな無茶苦茶な!」


顔を背けようにも両手でがっちり固定されているせいで微動だにできず、まったく心の準備ができていないのに、りょーたの顔はお構いなしにじりじりと近づいてくる。

彼の呼気を間近に感じて、心臓が跳ねる。
胸を突き破って飛び出してくるんじゃないかってくらい、暴れる、暴れる、暴れる。



「――っ、」



ぎゅっと目を閉じ、真っ暗になった視界の中で、くちびるに押し付けられた感触は。

ふに、とマシュマロみたいにやわらかかったような。
さっきのドーナツみたいに若干パサついていたような。

じわりと熱っぽかったような。
むしろキンキンに冷えていたような。

すぐに離れてしまったから、正直よくわからなかったけれど。


「うし、一歩前進」

目を開けたら、りょーたが屈託のない、晴れやかな表情で笑っていて。

それを見たらふにゃりと全身の力が抜けて、もうどちらでもよくなってしまった。



 
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