澪ちゃん恋をする
「俺な」
木を見つめながら仁菜に話しかけた。
「うん」
仁菜も木を見つめながら俺の話を聞く。
「本気で医者になろうと思う」
そう言うと仁菜が笑った。
「…でも不良は続ける」
そう言ったら仁菜はさらに笑った。
「良樹君なら、そう言うと思った」
仁菜は持っていたカバンから厚めの封筒を取り出して俺に渡してきた。
「なに?これ」
受け取るとその封筒はずっしり重かった。
「立花高校と、県立医大のパンフレット。お父さんに聞いたら、医者になるための一番いい進路だって」
仁菜は、俺が医者になるって言うと思って、院長にいろいろ聞いてくれていたらしい。
本当に、仁菜には頭が上がらない。
「あり…がとう…。こんな俺でも…なれるのかな?」
俺は封筒を握り締めながら言った。
正直、紗枝の前で医者になるとは言ったが、全く自信がなかった。
本当に、俺なんかが医者になれるのか不安だった。
「…慣れるよ。良樹君なら。だって、諦めるヤツが嫌いなんでしょ?」
俺は仁菜の方を見た。
仁菜も俺の方を向いてニコッと笑った。
「しかも紗枝ちゃんの夢も背負ってるんだもん。絶対大丈夫」
仁菜はそう言ってもう一度木を見つめた。
絶対大丈夫…か。
そんな簡単に言いやがって。
でも、不安が一気に晴れた気がした。
「ありがとな。仁菜」