夕凪に映える月
――懐かしいな、この感じ。
2人が引退してからはこういうのってなかったから……こんなやり取りを見るのは久しぶりで、とても嬉しい。
やいのやいのと2人が話をしていて、時々私が口を挟んで、楽しい時間を過ごしていると
「なー、ミナト。」
「あぁん??なんだよ、アツ。」
「俺、チョコレート食べたい。」
あっちゃんはこんなワガママをお兄ちゃんに言い始める。
「えー?チョコ??
そんなもん、ウチにはねぇよ!!」
「じゃー買ってこいよ。」
「アホか!それならオマエが買ってこい!!」
たかだかチョコ一つで大騒ぎ。
こんなところはお兄ちゃんもあっちゃんも、本当に子どもっぽい。
――この感じだと長引くなぁ、このやり取り。
「じゃぁ、私、近くのコンビニでチョコレート買ってくるよ。適当に選んでいい??」
コートを羽織って、財布を持って立ち上がるとお兄ちゃんはキラキラした目で私を見つめてたけど
「あ、じゃぁ俺も一緒に行くわ。」
「え!!?」
「ナギ一人じゃ夜道は危ないだろ?ついていくよ。」
あっちゃんはこんなことを言いだして。
近くに脱ぎ捨てていたブレザーを手に取ると
「じゃ、行くぞ、ナギ。」
私の肩をポンポンと叩いた。